【オリジナル小説:hear】…第1章:秘密の場所
パソコンのデータを整理してたら、3年前に書いた小説がでてきた。
第8章くらいまで書いて、クライマックス手前で止まってる。今になって読み返したのでブログで公開してみます〜。読書好きなかた是非読んでみてください〜^^
雲ひとつない空澄んだ青。住宅が近くにあるせいか帰宅する子供の声がする。公園の裏手から少し坂を登ったところに日当たりのいい丘がある。休憩所のように屋根付きのベンチが置いてあるものの、人はほとんど来ない。時たま通る車の音が風に乗って眠る木々たちを騒つかせた。
僕と妹はこの時間、この場所にくるのが日課だ。
3ヶ月前のある日…バケツをひっくりかえしたような雨がいきなり降った。…数分間で全てを洗い流し去っていった。行き場をなくして立ち止まった水たまりたちは、淡い水色だった。そして、雨が通った後を追うように西からオレンジの波が僕たちを染めた。それは一瞬の出来事で僕も妹も、会話することを忘れていた。まだ乾いていない風が僕たちのほを撫で、木々を揺らし昨日の方向に向かって逆再生した。
あの時の心臓を何かに掴まれたような、なんとも言えない感覚が僕は忘れられない。それから毎日僕たちはあの日の景色をもう一度探してここにくる。3ヶ月間ここで見たあの景色のことは僕と妹だけの秘密にしている。
妹「今日の空は何色?」
疑問文なのか何かの歌なのか、肩を揺すりながら妹が僕に尋ねる。
僕「今日も綺麗な青だよ」
穏やかに僕は応える。
妹「そう。…」
目をつむり背筋を伸ばし胸を張る。そこらじゅうの空気を全部吸い尽くす勢いで、大きく息をすいこみ吐き出した。
妹「今日は雨は降りそうにないわね。でも…夜は少し冷え込むみたい」
妹は目をつむったまま清々しく話した。
僕「お前にはわかるんだね。僕にはわからないことが」
いつもと何一つ変わらないやりとりだ。こいつは歩く天気予報師みたいだ雨や雪の情報を当てる。それもかなりの高い確率で的確に。宇宙にある、何とかっていうヤツよりもよっぽど頼りになる。
僕らは何時間くらいここにいただろうか、おそらく1時間くらいだろうか。西の空が傾き始めて妹が言った通り少し乾いた冷たい風が吹いてきた。
僕「そろそろ帰ろう、今日はもう見えそうもないよ」
残念そうに言う。
妹「もう少しだけ待ってみよう?」
僕「ダメだ。風邪引くと困るだろ。母さんも心配するよ。さぁ、帰ろう」
これもいつものやりとりだった。
妹「明日は見えるよね?」
僕「明日はきっと見える」
その日と呼んでいた日はついに、明日になっていた。明日はその景色を僕たちの大切な人に贈る日だ。でも、残念ながら3ヶ月前に心を奪われたあの景色はその日から1回も見えていない。でも、なんでだろう。なんとなくだけど僕の中で「明日は見える」て確信があった。うまく言えないけど、テスト勉強をしてないけどテスト前にどこからかわいてくる謎の自信…そう、それに近い感じのものだ。結果は想像に任せる…。
妹「わかった。じゃあ行こう」
妹はそんな謎の自信を小さいときから信じている。3ヶ月前あの景色を見た帰り道だってそうだ…僕のとっさについた嘘を心から信じきっている。
僕「そっちは危ないよ、こっちから帰ろう」
どうしてだろう。こんな人通りの少ない道を広くするためにでっかい機械を入れて何日もかけて工事をしている。紅白の旗を持ったあの男なんか、15分に1度はタバコを吸って座っている。まぁ、少なくとも僕たちがここにいる間はだけど…。
妹「工事?」
僕「そうだ、工事してる。」
妹「誰かいるの?」
僕「ああ、紅白の旗を持ったおじさんがこの丘の下に一人と、公園の出口のところに一人立ってる」
妹「…」
妹の体がこわばる…。とっさに掴んだ僕の腕から体の震えが伝わる。
僕「大丈夫、お前が嫌いな赤いやつはいないよ」
妹「よっかった…」
全神経が解放されたように、深い息をついた。
僕「ほら、こっち」
妹の手を引いて、工事してる反対側の道から坂を下り公園る。公園は広いわりに出入り口が東側と西側に2つしかない。東にから出ても西から出ても家に帰るのに遠回りになるので、いつも僕が見つけたとっておきの近道を使う。公園とテニスコートが隣接するところに公衆トイレがある。その公衆トイレのちょうど真後ろに犬か何かがフェンスを壊して、ちょうど通り抜けれるようになっている。公園を管理している人もトイレ掃除にはくるが、大人がギリギリ入れるフェンスと公衆トイレの間を「フェンスが壊れていないか」なんて、いちいち確認しない。
僕は得意げに鼻歌を歌いながら、先頭を風を切って歩く。
僕「~♪」
妹「お兄ちゃん気分いいのね、こういうの見つけるのだけは得意よね」
妹が少しはにかんで笑う。
僕「おう、これで20分は短縮できるぞ~」
自慢げに言う。
妹「20分はオーバーね、公園をゆっくり一周しても20分くらいよ。この道を使って丘から家までが15分くらいでこの道がなかった時は…えっと~」
妹が時間を計算している。
僕「まぁまぁ、深いことは気にしない!それより今日の夕食はなんだろうな」
妹「もう、お兄ちゃん。また話変えて~」
二人で笑いながら15分かけて家に帰った。裏道からまっすぐ進んだ3つ目の角を左に、4車線の大通りを注意して渡る。ガソリンスタンドやコンビニ、スーパーがある中、もともと白色だった外壁がクリーム色にへ変色して、所々水垢がついている築30年ほどのアパート。ここが僕らの家だ。古いけど見た目ほど住み心地は悪くない。家主がいい人で昔父さんと母さんが出会ってすぐに住む場所を提供してくれたみたい。家主は何をしている人なのだろう。あまり見かけないけど、家を提供してくれているんだ。あまり人付き合いがよくない僕でも、たまにあった時にはきちんと会釈くらいはする。
0コメント